免責事項: このメモはゲストから学んだ事を深く理解するためであり、私自身主観的な解釈が意識的、または無意識的に文字に反映されています。そのため、このメモよりゲストのお言葉の引用をお控えください。実際に何をどういう状況、口調、形で会話された内容に関しましては、ポットキャストYouTubeにて全てご覧頂けます。

大槻さんとは10年となる付き合いで、飲食しながら雑談してきた他、インタビュー通訳や翻訳などで、一緒に仕事させて頂きました事もあります。彼は技術や業界を深くまで研究することが出来る優秀な記者/研究員である上、自分の意見をはっきり伝え、群れたりしない珍しい日本人。

だからこそ、Foxconnの郭台銘を独占インタビューした初めての日本人記者となり、その後もソニー前CEOであるハワード・ストリンガーをインタビューしたり、フジテレビの「日本の電機メーカー 低迷から復活シナリオ」に出演するなどの輝かしい経歴を持っています。

2010年、中国語もほぼ話せない状態で、エレクトロニクス産業が急速に成長していた台湾へ単身移住。9年後に日本へ戻り、現在は川崎市と神奈川県、日本政策投資銀行などが出資したディープテック・アクセラレータで起業家教育やテクノロジー・マッチングや投資を担当しています。

その「群れない」大槻さんとまるまる2時間トークさせて頂きました。その会談を以下のようにまとめました。

ベンチャーキャピタルから記者へ

大学時代に金融を専攻していた大槻さんは、最初にCSKベンチャーキャピタルに勤めた。もともと勉強好きの彼は、色んな技術関連の文章や文献を読んでいた。そのうち、「稼ぎながら勉強したい」という強い願望から、技術研究を続けられる仕事へと転職した。それが日経エレクトロニクスだった。

日経グループに入社するバーは高い。そして台湾と違って、日本はメディアの給料も悪くない。ただ、学歴も仕事も金融だった人間が、日本トップの技術雑誌に認められるというのは、常人離れの努力が費やされていたに違いない。

飛ばずの三年間 ー 日経エレクトロニクスにて

輝かしい経歴を持った大槻さんも、最初の三年間は飛ばず泣かずの状態だったという。その理由は「技術知識を補うことに慣れるために時間がかかった」という所らしい。ただ、成績の良し悪しを決定するのは、読者アンケートだったというのが面白いと思った。出版社ですから、読者がお客さんだと考えれば、当たり前だと思いますが、「閲覧数」という「数量」を強調する現在に比べ、「質量」を重視していたというのは凄くいいと思った。

時間が立つに連れ、色んな事に慣れていくと共に、金融経歴も大槻さんの「成績」に貢献していった。彼はエレクトロニクスという技術に重視するほか、この技術が業界に対するビジネス影響といった視点も、読者のために付け加えていた。ある意味、彼は「お客さんのお客さん」に関係する情報も、記事に含めていったのである。

FoxconnのCEOとの独占インタビューも、大槻さんにしてみれば、普通に営業活動をちゃんとやっていれば、そんな難しい事ではないという(いやいや、難しいよw)。その「普通」とは、インタビューされる相手は何が欲しいのか?ベネフィットは何か?などをしっかり考えた上で、アプローチすべきだという。

記者としてのブレイクスルー

大槻さんの著名作は、はやり2006年に出版した「鴻海は敵か味方か」という36ページに渡る大河レポートである。しかし、彼はその前には既にいくつかの人気記事を作り出していた。「撮像素子の主役交代 CCDを凌駕するCMOSセンサ」、「常識破りのレンズ材料が デジカメと携帯電話機を刷新」など、デジタルカメラや光学に関する記事が彼のテリトリーだった。

2005年の頃、仕事の関係で深センに赴いた時、高速道路の傍らに途轍もない大きい工場地帯があった。同行していた方に聞けば、それは鴻海の工場であり、東京ドーム36個分の面積があると驚いた。このような会社を記事にしなければならないと決意し、情報収集は勿論、郭台銘に取り次げられるように「普通の営業活動」を開始した。

FoxconnのCEOに10時間近く、2度に渡る取材を成りし得た大きな理由は、「物凄く興味を持ってくれていた」だという。郭台銘にとって、日本大手メディアがこんなに興味を持ってもらえるというのは驚きだった。また、その時期のFoxconnは日本国内において、直接取り引きしている調達や購買担当以外はほとんど知られず、エレクトロニクス業界の人間でも「名前は聞いたことある」くらいの知名度だった。鴻海のビジネスとしても、日本企業のお客が少数だった事から、事業開拓にもなると考えたのだろう。

この記事がもたらしたインパクトは大きい。それは日経エレクトロニクスのビジネスに対してもそうだ。「成績」を決定読者アンケートに「この記事によって(会社ではなく個人として)購読を再開しました」という読者は少なくないという(日経エレクトロニクスは本屋で売っているような雑誌でなく、購読メンバーシップ制で、定期的に自宅や会社に郵送ビジネスモデルだった)。大槻さんの「貢献」に対して、会社からのボーナスはなく、上司が自腹で一万円くれたとのこと。凄く少ないと僕は思ったが、当時の大槻さんはかなり嬉しかったようです。(理由はポッドキャストやYouTubeを視聴下さいw)

会社を離れ、台湾へ移住

その後も前CEOであるハワード・ストリンガーのインタビューを含めて、いくつかのヒット記事を出した大槻さんですが、2010年に長く勤務していた日経エレクトロニクスを離れる事になる。彼は当時のメディアのやり方は今後難しいだろうと判断し、記者の人数を減らすべきと提案。その上、エレクトロニクスの本拠地は台湾や深センにあるから、そちらへ支部を立ち上げるべきだと上司に伝えた。ただ、海外支部の予算がないと言われ、相変わらず「群れない」大槻さんが、「じゃ自分会社を辞めますので、その分コスト軽減にも繋がる」ということで、台湾へ移住した。(その上司の反応は「ええ!?それはアンバリ−バブルだぜ大槻君!」だったに違いないw)

TMRというテクノ・マーケット・リサーチ会社を設立し、過去の取材先がクライアントになったこともいくつかあったという。当時インタビューを受けていた方々は、所謂その企業の成長株という、優秀かつ成績を出しているが、まだ予算を握る管理職になっていない人材だった。それが数年後昇進し、エレクトロニクス業界にとって掛け替えのない台湾に大槻さんがいるという事で、市場調査の依頼が入っていたらしい。

大槻さんが台湾に来て間もない時に(2010年末)、共通の友人に紹介され、興味もないダーツバーで立ち飲みしていたのが初対面だった。その後はプライベートでの付き合いのほか、郭台銘さんのインタビューに通訳として付き添い(2012年と2014年、シャープの堺工場にまつわる話題)、鴻海に関する文書の翻訳にも関与させて頂いた。

起点であったベンチャーキャピタルに帰還

9年間、台湾でのビジネスは順調だった。年収で考えれば、台北においても富裕層に入っていたが、日本へ帰ると決めざるを得ない事が起きた。その群れない一匹狼の大槻さんに子供が出来たのだ。一番大切な教育は学校でなく、親と環境だということで、会社を経営していると、どうしても子供のために、固定した時間が取りづらい。台湾のサラリーマンだと収入も大幅減るということで、日本での就職を模索し始め、最終的に落ち着いたのは株式会社ケイエスピーという、創業支援、企業家育成、成長支援、企業交流やイベント開催などを事業内容とする川崎に位置する会社だ(これも実はTMRのクライアントだった)。

大槻さんも担当する企業育成プログラム「Kawasaki Deep Tech Accelerator」は、オフィシャルサイトの紹介によれば、「本プログラムは川崎市が主催し、30年に亘り、インキュベータとしてベンチャー企業の創出、育成に実績をもつ株式会社ケイエスピーの運営協力により実施します」とのこと。

川崎市という地方政府主催のアクセラレータだからといって、甘く見てはいけません。インキュベータやアクセラレータが多く存在している今、良いスタートアップや起業家の募集は簡単ではないが、Kawasaki Deep Tech Acceleratorは優秀な応募者に困らないという。優秀な人材が川崎市やその近隣に豊富で、KSPがアクセラレータの老舗だからだろう。

注目産業としては、医薬、医療、ロボティクスとカメラ。応募者が提唱する技術がかなり重視するプログラムである(Deep Techだからな)。応募者は法人や個人に限らない。毎期採択されるのは10人社(10チーム)、育成期間は7カ月だ。KSPは採択者に必ず投資するわけではない。10社中0〜2社ほどと、かなり選別するようだ。

大槻さんの長期目標としては、スタートアップを支援しながら、このファンドサイズを拡大してきたいとのこと。バリエーションが高い企業のリード・インベスターになれるほどの資金があれば、投資出来る企業の数も増えるという。

2001年にベンチャーキャピタルを離れ、20年の修行で積んだ経験、見解、能力、人脈そして心構えを持って投資の世界へ帰還した大槻さん。かつてエレクトロニクス業界に驚きと楽しみをもたらした彼が、今後スタートアップの世界でも大暴れする事を期待しています。

大槻智洋 Twitter: T_Otsuki

About Dan Zen Learning
断然ラーニングはシリアル・アントレプレナー、IT業界の営業とマーケティングを熟知し、12年日本、10年台湾、6年北京での仕事経験を持つトライリンガル、毎日何らかを学んでいるダンより提供。
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